こんな仕事をしてきました

『ゲコノミクス』と『食べることと出すこと』

40過ぎたら、めっきりお酒に弱くなりました。そんな折に目に止まったのが「ゲコノミクス」の文字。スゴ腕投資家には、世の中の穴が光って見えるのでは?とうなりました。この本に対しても、「ゲコの潜在市場?ノンアルビールがもうあるじゃん」と言う人がい…

『負債論』を読むメモ(1)友人にお金を貸してはいけない理由

いまさらだけど2020年の年明けからデヴィッド・グレーバー著『負債論』を読んでいる。日本語訳は2016年11月でずいぶん話題になって、そのあとに出た本でも引用を見かける。厚さ5.5センチの鈍器本である。 「第五章 経済的諸関係のモラル的基盤についての小論…

映画『小名木川物語』が映すもの

小名木川物語 予告編 (2019) この映画は、撮影の間、この街に流れていた時間を映し出している。 物語は春から夏、秋、そして春が来るまでの1年の間。 桜が咲き、夏が近づくと朝顔市、灯篭流し、お神輿。 秋には美楽市、酉の市、町のそこここでお餅つき、そ…

コーヒーカップが割れてから

週末のたびにご夫婦で営んでいる近所のコーヒー屋さんにいく。 小さなお店は6席、それもイスはスツールやベンチで、混んでいる時は折りたたみイスが加わる。コーヒーが注がれるのは紙コップや持参のマグ。コーヒースタンドというのがふさわしいかもしれない…

開かない扉を叩き続ける音

6月、ようやくリニューアルオープンした東京都現代美術館へ。 急ぎ足でボリュームある2つの企画展を見て回るなかで、目がとまり、ベンチに腰を下ろしたまま動けなかった映像があった。 それは、ヂョン・ヨンドゥ《古典と新作》2018。 昨年秋、休館中に街中で…

憧れに背を向けて

1月、ある読書会に参加した。2018年のオススメ本を1冊ずつ持ち寄る趣向だ。私が紹介したのは『中央銀行』(東洋経済新報社)。日銀前総裁が著した大著だが、何より職業人としてのありようが印象的だった。 昨今、「組織にとらわれない自由な働き方」が…

身体を運んだ時間

岩手県沿岸の三陸鉄道を取材したのは昨年2月のこと。3月、震災から復旧したJR線が三陸鉄道に移管され、運行再開するという報道を機に、1年前の道中が思い返された。 すし詰めの代替運行バスで高校生に交じって身を縮め、乗り換え待合所の寒さに凍えた時…

忘れられない言葉

書いた記事で訴えられたことがある。通信社の駆け出し記者だったころだ。スクープではない。他紙の後追い記事で一緒に訴えられた。 訴訟経験者(こちらはスクープで)の大先輩が電話してきてくれてこう言った。「ウソはつくな」。当たり前に聞こえるが、法廷…

聞き流せない話

特集の編集作業が佳境に入る週には、静岡の母に2泊3日で来てもらい、子どもの世話を頼んでいる。校了翌朝は、一人暮らしの母の話し相手を務めるのが常だ。 先日もそうして相づちを打っていると、話の中身にどうも引っかかる。「S銀行から保険を乗り換える…

言葉を失う風景

フェイスブックの写真にあぜんとした。台風21号が西日本に大きな被害をもたらした直後、9月6日のことだ。兵庫県西宮市のビーチリゾートががれきに覆われている。 投稿した斉藤健一郎さんは、9月11日号の「会社を買う売る継ぐ」特集でレストラン事業を引き…

言えなかった言葉

「私は息子に継いでくれと言えなかったんですよ」。6年前、62歳で死を前にした父が、病床を見舞った私の夫に問わず語りにつぶやいた。 実家は静岡で緑茶の製造卸小売業を営んでいた。父の死とともに事業を畳み、自宅1階の店舗はがらんどうでシャッターが下…

胸に刻み込まれた言葉

最初に編集部に来てから、10年がたとうとしている。初期に出会った方々の言葉は、今も胸に刻み込まれている。 問いを立てることの大切さを教えてくれたのは、日本株ストラテジストの北野一さん。これは後に、経済学者の浜矩子先生にもたたき込まれた。 デー…

何を贈ることができるのか

ネットが浸透したなか、紙媒体の価値をどこに見いだすか。スピード、情報量、双方向性は圧倒的にネットが勝る。連載「ネットメディアの視点」で編集長の方々に寄稿いただいているが、ネットの特性を生かしたコンセプトを拝読するたび、問いは我々自身へと向…

Uターンならぬ孫ターン

山口県への移住相談に携わる友人の誘いで先日、東京国際フォーラムで開かれていた「やまぐち暮らしフェア」へ出掛けた。各市町がブースを出し、暮らしやすさや移住支援策をアピールしたりしている。 スタッフTシャツを着た友人に、若い男性が声をかけた。周…

もう一度、クリスマスの行列

折に触れて思い出す光景がある。2003年のクリスマス、赴任していた佐賀でのことだ。 地銀S銀行に行列ができた。「潰れるそうだから全額引き出した方がいい」。信じた女性が友人に送った携帯メールが広がった。 当時、何か金融不安があったわけでもない…

街に流れる時間の結晶のような映画「小名木川物語」

映画って今流れている時間を閉じ込めることができるんだなと思った。 「小名木川物語」は、今この街に流れている時間の結晶のような映画。 今だけじゃない。これまで流れてきた時間も、記憶として織り込んでいた。 MOTサテライトといい、街が変わっていく…

ポスト・トゥルースとしてのナラティブ

POST-TRUTH(ポスト・トゥルース)という言葉を見かけるようになったのは昨年末。オックスフォード大が世界の2016年の言葉として選んだことがきっかけだった。客観的事実が重視されない、由々しき事態として捉えられることが多いように思う。 だけど、それも…

甘えへの喝

取材先の言葉に凍りついた。「資料をちゃんと読んできたのか。サービスを使ってみたのか。それならそんな質問はしないはずだ」。準備不足は明らかだった。「こちらは時間を割いている」。席を立つ背に頭を下げるしかなかった。 読者の代わりに尋ね、伝える。…

思い返す夏

2005年の夏は暑かった。小泉純一郎首相が仕掛けた郵政解散で降ってわいたような総選挙。私は佐賀県じゅうを取材で右往左往していた。 印象に残っているフレーズがある。佐賀駅前の選挙演説だった。「民営化で流れ出す350兆円の郵便貯金がこの佐賀にも…

運転なんかしたくない

車の運転が苦手だ。それなのに、地方で取材していた5年間は不可避だった。あちこちぶつけるのは日常茶飯事、「人に危害を加えてしまうような事故を起こしませんように」と毎日、神様に祈った。東京に来る前に車を手放すと、肩の荷が下りた心持ちがした。交…

実感を話すということ

とっても久しぶりの投稿です。 あぁ綴りたいなぁということは日々あぶくのように現れては消えていくけれど、ようやく書く時は現実逃避気味という情けなさ。 誰も彼もがSNSをやっている世の中で、さまざまな物事にまつわる実感を聞くことは、それ以前より…

車両工場で目にしたもの

この号の取材でヘルメットを被ること5回。各社の車両工場や研究施設にお邪魔した。説明を聞きながら必死に観察する現場で、目の隅、耳の端に止まったことが印象に残っている。 タイ・バンコク、パープルラインの車両基地でのこと。案内役の総合車両製作所の…

よみがえる絶版本

「良い本があるけれど、絶版で読者が手に入れづらいかと思い、やめました」。黒木亮さんがこう仰ったのは、2009年末発売号「経済小説作家の本棚」で書評を執筆いただいた際のこと。“絶版”の言葉が気にかかり、「今度はぜひ、絶版本に限った書評をお願い…

言葉を届けるということ

折々に目がとまった言葉を書き留めてゆきたいと思います。 ----------------------------------- そんな私に、こう言ってくれた人がいます。 どこの誰だかわからない人に向けて、くりかえし言葉を変え、言い方を変えて、伝えようとし続けるのが物書きの性で…

最期の日々に

実家の片づけという言葉は2014年の隠れ流行語大賞ではないかと思うほどよく見かけた。その文字を見るたび、そしてガランとした実家の一室に泊まるたび、胸がしめつけられる思いがする。 3年前に祖父が他界すると、父は猛然と遺品を処分した。それに留ま…

子育てにお役立ちのアナログ三種の神器

ちょっと一休みして小ネタ放出。埋め込みも試してみる。 戦後の「白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫」に始まり、高度成長期の「カラーテレビ、クーラー、クルマ」、そしてデジタル時代の「デジタルカメラ、DVDレコーダー、薄型テレビ」と時代ごとに“三種の神器”と…

11月15日 医薬分業

またまた間が空いてしまいました。引っ越したはてなブログでは、何日前の記事が表示されるのですが、70日前とあるのを見てびっくり、そんなに経ってしまったか・・・。年内に「父の病窓から」を完結させることはできず、年度内が最終リミットです。ほんとに…

11月14日 通院

街角の焙煎所で珈琲を手にぼんやりしていたら、学校帰りの小学生たちがガラスの向こうを歩いていく。新しいお客さんと入れ違いにごちそうさま、と通りに出たら、ミルで豆を挽いたのだろう、ふわっと香りが広がった。ワインのような、変わった豆だそうだ。焙…

11月11日 面会

11月11日 夫の父母が見舞いに来てくれた。あと1カ月だと言われて、誰に会っておいた方がいいのか考えなければならなかった。そうすると、やっぱり本人に聞いた方がいいのではないかという迷いに何度も戻った。 誰に会っておきたいんだろう。誰に会いたいん…