憧れに背を向けて

 1月、ある読書会に参加した。2018年のオススメ本を1冊ずつ持ち寄る趣向だ。私が紹介したのは『中央銀行』(東洋経済新報社)。日銀前総裁が著した大著だが、何より職業人としてのありようが印象的だった。

 昨今、「組織にとらわれない自由な働き方」が礼賛されるが、それと対照的に、一つの組織で培った経験と見識を生かし、自らが奉じた組織の役割を考え抜く姿勢に憧れを抱いた。

 にもかかわらず(と結びつけて自分のことを述べるのは、立場がかけ離れすぎていて気が引けるが)、編集部を4月末で離れる。08年からブランクをはさんで通算7年弱在籍した。今後、媒体という場と看板を持たずにどう仕事をするのか分からない。でも、このまま居続けるのはいくつかの面で限界だった。

 ゼロから歩こうと思う。憧れたのは働く「形」ではなく、真摯(しんし)さだったはずだ。

 

(『週刊エコノミスト』2019年5月7日号 編集後記)