身体を運んだ時間

 岩手県沿岸の三陸鉄道を取材したのは昨年2月のこと。3月、震災から復旧したJR線が三陸鉄道に移管され、運行再開するという報道を機に、1年前の道中が思い返された。
 すし詰めの代替運行バスで高校生に交じって身を縮め、乗り換え待合所の寒さに凍えた時間。更地にぽつんと建つ被災庁舎。かさ上げ工事の車両が巻き上げる、あたり一面の土ぼこり。巨大な堤防。穏やかに光る海。
 1泊2日の出張は駆け足で、ひたすら乗り物に揺られていた。取材というより、ただ眺めている時間ばかりだったが、断片的な光景が焼き付いている。
 それは、文章や写真のように整理され、何らかの意味づけがなされて届けられる情報とは異なる。自分の身を置いて感じたものは解釈し切れないからこそ、こうして残るのだろう。
 そういえば三陸鉄道以来、出張取材をしていない。どこか遠くに行きたい。

 

(『週刊エコノミスト』2019年4月2日号 編集後記)