もう一度、クリスマスの行列

 折に触れて思い出す光景がある。2003年のクリスマス、赴任していた佐賀でのことだ。
 地銀S銀行に行列ができた。「潰れるそうだから全額引き出した方がいい」。信じた女性が友人に送った携帯メールが広がった。
 当時、何か金融不安があったわけでもない。降って湧いたような取り付け騒ぎだった。本店では現金が運び込まれ、銀行役員や日銀支店長が拡声器で訴える声が空しく響く。列に並ぶ人に話を聞こうとしたら、「アンタ潰れんって保証してくれるんかね」と詰め寄られ、返す言葉に窮した。
 1990年代の金融危機の際、銀行は押しかける預金者を会議室に誘導して人目につかないようにした、と連載「ネットメディアの視点」で土屋直也さんが書いていた。記者も報じないことで波及を防いだが、ネットが浸透した今、隠しおおせはしないだろう。
 銀行にお金を預けることも、貨幣自体の価値も、無意識の信用の上にある。どう揺らぐか分からない人々の心の上に。それが崩れるなんて別世界のようだが、足元の信用とは積み木に過ぎない、と脳裏の行列がクギを刺す。

 

(『週刊エコノミスト』2017年5月30日号 編集後記)