忘れられない言葉

 書いた記事で訴えられたことがある。通信社の駆け出し記者だったころだ。スクープではない。他紙の後追い記事で一緒に訴えられた。
 訴訟経験者(こちらはスクープで)の大先輩が電話してきてくれてこう言った。「ウソはつくな」。当たり前に聞こえるが、法廷で証言するために日常の仕事の一場面を事細かに振り返れば、なんらか不都合は見つかる。一度ごまかせば、ウソの上塗りを重ねざるを得なくなる。役所や企業の大がかりな不祥事でも、最初の一歩は小さいものだ。
 もう一つ忘れられない言葉がある。「万が一、過失が認められるのならば私の責任です」。担当デスクが報告書に書いていた。目にした時は「いや、書いた自分の責任だ」と反発した。
 その後、ある組織で事が起きた時に現場ですべてを負わされ、切り捨てられて傷ついた人に取材で接し、私は恵まれていたのだと分かった。

 

(『週刊エコノミスト』2019年2月26日号 編集後記)