思い返す夏

 2005年の夏は暑かった。小泉純一郎首相が仕掛けた郵政解散で降ってわいたような総選挙。私は佐賀県じゅうを取材で右往左往していた。
 印象に残っているフレーズがある。佐賀駅前の選挙演説だった。「民営化で流れ出す350兆円の郵便貯金がこの佐賀にも来るんです」。それはない、と反射的に頭をよぎった。
 郵便貯金の次は、農協金融か──。当時抱いた予感を思い返したのは、今号の目玉、小泉進次郎氏のインタビューの際だ。「0・1%。農林中金が集めた93・6兆円のうち、農業の融資にどれだけ回っているかです。もっと回れば極端な話、補助金はこんなに要らない」。話の仕方も父上を彷彿(ほうふつ)とさせた。
 郵政3社は上場し、民営化の最終段階に入った。郵便貯金は佐賀を潤しただろうか。進次郎氏は政策にPDCAを導入するという。効果検証は我々取材者こそすべきなのだ。

 

(『週刊エコノミスト』2016年9月2日号 編集後記)