何を贈ることができるのか

 ネットが浸透したなか、紙媒体の価値をどこに見いだすか。スピード、情報量、双方向性は圧倒的にネットが勝る。連載「ネットメディアの視点」で編集長の方々に寄稿いただいているが、ネットの特性を生かしたコンセプトを拝読するたび、問いは我々自身へと向かう。
 最終ページで始めた連載「ローカル・トレインがゆく」。かねてより、雑誌を手に取った時に目につきやすいこの欄を、ふと目をとめ、引き込まれるようなものにできないかと考えていた。
 せわしない日常に、ここではないどこかへと思いを馳せる一瞬を贈ることができたら、うれしい。
 鉄道は地方で、移動手段としてクルマに押される。そのなかで新たな価値を見いだす試みを伝えたい。
 観光列車「伊予灘ものがたり」の前回、「沿線から手を振る、乗客が手を振り返す」という下りがあったが、私も先日、とある列車に取材で乗った際にこれを体感した。
 見知らぬ人同士がつかの間、笑顔で手を振り合うのは、なんとも気持ちが和らぐひとときだった。

 

(『週刊エコノミスト』2017年12月12日号 編集後記)