車両工場で目にしたもの

 この号の取材でヘルメットを被ること5回。各社の車両工場や研究施設にお邪魔した。説明を聞きながら必死に観察する現場で、目の隅、耳の端に止まったことが印象に残っている。
 タイ・バンコク、パープルラインの車両基地でのこと。案内役の総合車両製作所の方が、被っていたヘルメットを車両内で布帽に替えた。内装を傷つけないためだそうで、タイ人の鉄道会社スタッフにも伝えていた。
 工場ではあちこちに標語が。
 日本車輌製造豊川製作所。「品質こそ生命」「掃きとれ、吸い取れ、切粉取れ」。
 東芝府中事業所。「意地はらず 他人の忠告 素直に聞こう」。安全に限らない至言だ。
 川崎重工業兵庫工場。「気をつけよう 覚えた時より慣れた時 初心を忘れず 安全作業」。終業時間が過ぎた頃、工場から帰路につく一人が道路を渡る時、左右を指差し確認する姿があった。

 

(『エコノミスト別冊』2016年5月 鉄道)

よみがえる絶版本

「良い本があるけれど、絶版で読者が手に入れづらいかと思い、やめました」。黒木亮さんがこう仰ったのは、2009年末発売号「経済小説作家の本棚」で書評を執筆いただいた際のこと。“絶版”の言葉が気にかかり、「今度はぜひ、絶版本に限った書評をお願いします」と返した。
 あれから6年。8月11・18日合併号にて「よみがえる絶版本」として復刊ビジネスの動きと併せ、形にできた。助言を仰ぎ、執筆いただいた黒木さんは「良い本ほど絶版になる」という。
 ひとり出版社で復刊を手がける夏葉社の島田潤一郎さんは「良い本は売らなければならない」と訥々(とつとつ)と語る。電子書籍で半永久的に残せたとしても、そのままではネットの海に埋もれてしまう。掘り出して伝えるのは、やはり人。口伝で物語が受け継がれた昔から印刷物、そしてデジタルとなっても変わらないのかもしれない。

 

(『週刊エコノミスト』2015年9月1日号 編集後記)

 

言葉を届けるということ

折々に目がとまった言葉を書き留めてゆきたいと思います。

-----------------------------------

そんな私に、こう言ってくれた人がいます。

どこの誰だかわからない人に向けて、くりかえし言葉を変え、言い方を変えて、伝えようとし続けるのが物書きの性ではないか。あなたはもうその一歩を踏み出したのではないか。

(『本を読む人のための書体入門』正木香子著)

 

 

こんなふうに、やじろべえみたいな感じでね。あっち側にもこっち側にも落っこちないようにすること。あっち側は、観客への迎合。こっち側は自己満足。その中庸の道を行く。行く道が細ければ細いほど、演技はすてきに輝くと思うんだ。

(俳優・西岡徳馬さんのインタビュー。2015年4月10日毎日新聞夕刊)

 

 

言葉は発信すれば伝わるものという、根拠のない楽観が蔓延する時代になったと思います。自分の書いたものは誰かに読まれているはずだ、あるいは誰かに理解されているはずだという前提に立った一方的な発信が増えたのではないでしょうか。

(略)

言葉足らずで誤解が生じたり、不信が生まれたり。どんなに一生懸命説明しているつもりでも、相手には理解していただけなかったりするから、本来は言葉を発すること自体に注意深くならざるを得ない。書き手がそうやって言葉に向き合っていた時代には、読み手も書き手が積み重ねていく言葉をそういう微妙なものとして受け止めて、真意を読み取ろうとしてきた。その書き手と読み手の間でひとつの小説の世界ができていくのが従来の小説のあり方だったと思うんです。

(作家・高村薫さん、五木寛之氏との対談にて。2015年4月26日号『サンデー毎日』)

 

最期の日々に

実家の片づけという言葉は2014年の隠れ流行語大賞ではないかと思うほどよく見かけた。その文字を見るたび、そしてガランとした実家の一室に泊まるたび、胸がしめつけられる思いがする。

3年前に祖父が他界すると、父は猛然と遺品を処分した。それに留まらず、家族の品をどんどん整理していった(私が大事にしていた本まで売ってしまった)。病は既に進行し、体調が優れないなかの作業だった。

あと半年の命だったのだから、あんなことに費やさなくてもよかったのに。でも、末期と告げられた後は家業を畳む始末に没頭し、もう動けなくなるまで工場に足を運んでいた父のことだから、最期の日々と知っていても同じようにしただろうか。

4年ぶりの編集部です。生老病死の密度が濃い生活を経ると、経済の言葉や発想に隔たりも感じますが、本当はつながっているはずです。

(『週刊エコノミスト』2015年4月21日号編集後記)

子育てにお役立ちのアナログ三種の神器

ちょっと一休みして小ネタ放出。埋め込みも試してみる。

 

戦後の「白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫」に始まり、高度成長期の「カラーテレビ、クーラー、クルマ」、そしてデジタル時代の「デジタルカメラ、DVDレコーダー、薄型テレビ」と時代ごとに“三種の神器”と呼ばれる家電がありました(Wikipedia調べ)。

そして現代、ワーキングマザーの三種の神器は「乾燥機能付き洗濯機、食洗機、ルンバ」らしい。あぁ食洗機ほしい...いつも流しが汚れたお皿でいっぱいだよ...とボヤキはさておき、1年あまりの子育て生活で使ってみてお役立ち!のアナログ道具を紹介してみたいと思います。家電ほど大層に生活を変えるわけではないものの、場面場面で確実にストレスを減らしてくれます。電化製品かアナログか、という二択なわけではなく、家電にプラスしてみてはいかがでしょうか。

 

1.洗濯板

はじめは、布オムツ生活には必需品~というネット記事を見て買ったのでした。産後、1カ月ちょいして落ち着いてから半年ほど、布オムツを使っていたのです。人から譲ってもらったので。といっても外出時と夜は紙オムツを使い、やっとウンチが固くなってラクになるはずの頃にはフェードアウトしてしまいましたが。

しかし、この洗濯板、オムツについたウンチを落とすばかりでなく、お洋服のウンチ漏れや外遊びの土汚れをこするにも、ご飯粒を落とすにも、すこぶる都合がいいのです。洗濯機にほうりこむ前にちょっと手洗いしなくちゃいけない時って多いもの。コンパクトかつシンプルなので、洗面所の蛇口にたてかけておけば、さっと使えて、見た目も邪魔になりません。プチプラだし、持っていて損はしないかも。


洗濯板 約17.5×10cm | 無印良品ネットストア

 

2.マッシャー

これは子どもが生まれるより前に買っていました。末期がんの父でも口にできるようポタージュを作ろうと思ったものの、電化製品が苦手な母はミキサーを受け付けないのでマッシャーを探したのです。見つけたのは柄が頑丈で大判のものと、この無印良品の小ぶりなものと。大きい方は実家へ寄贈し、この小さい方は手元において、ポテサラの芋をつぶす時などに使っていました。


ステンレス マッシャー・小 約幅5×長さ20cm | 無印良品ネットストア

この小ささが離乳食づくりに最適。初期のペーストにはミキサーを使いましたが、少し粗くてもOKになれば、だいたいコレでいけます。ミキサーって洗うのがとっても面倒だけど、マッシャーの手軽さといったら!フォルムが美しいところも気に入っています。

 

3.ほうき

産後は我ながら神経過敏でした。赤ちゃんの隣で床に敷いた布団に横になっていると、空を舞う塵や、床のホコリが目について、これを赤ちゃんが吸い込んでいるのか・・・と身もだえしました。すぐさま空気清浄機とハンディクリーナーを買ったものの、だんだん通常モードに戻ってくると別に気にならなかったり。

とはいえ、掃除機をかけられるのは夫が週末に子どもを連れだした時ぐらいで、子どもをおんぶしてかける技を覚えるも、だんだん重くなると辛い。しかも、ごはんを食べるようになると、あちこちに食べこぼしのご飯粒がカピカピになって転がっていて、見て見ぬふりも限界に。

 

そこで、ほうきです。

その辺の日用品売り場には見当たらず、せっかくなら良いものを、と宝町にある白木屋伝兵衛のお店まで地下鉄を乗り継いで行きました。

工房と事務所の一角が板の間のお店になっていました。子どもが商品のミニほうきやらたわしやらを散らかして遊ぶのにもとっても親切にしてもらえてありがたい限り。子連れ客、多いみたいです。

用途を説明して勧められたもののうち、一番安いものを選びました。それでもチリトリと合わせて7000円超。 初心者だからこそ、使いやすいというもう一段上のものにした方がいいか迷ったけれど(編みこんだひもが赤いのもかわいかった)、マメに使い続けられるか分からず、物を丁寧に扱うタチでもないので思いとどまった。入門編として1本使い込めたら、ワンランク上げようと。

 

http://cart02.lolipop.jp/LA03076216/img/product/PR00100430998.jpg

 

白木屋傳兵衛 オンラインショップ

んで使ってみると、これが毎日しっかりお役立ちなんです。冷蔵庫の横にかけてあるのをひょいととって、気になるエリアだけパパッとゴミを寄せる。イスをどかさなくても、脚の合間にほうきの先が入り込みます。チリトリでごみをとるのって何回繰り返しても少し残ってストレスだけど、ハンディクリーナーで吸い取ってしまえば一瞬。リビングをざっと掃除するのに5分とかかりません。掃除機のように、周りをうろちょろする子どもの指を吸い込んでしまわないかとヒヤヒヤすることもない。深夜でもチリトリを使えば気がねなし。朝ってまぶしい光のなかで埃が目立つのに掃除する隙はなくていきなり憂鬱になりがちだけど、掃除してから寝ると気持ちよく朝が迎えられます。

ちょっとその辺に置いておくと、子どもが持って掃除のマネをします。安心して触らせられるのもアナログ道具のいいところかも。

 

番外:ドアストッパー 


マグネットドアストッパー(BK): インテリア雑貨・生活小物 - 【ニトリ】公式通販 家具・インテリア通販のニトリネット

もともとドアについているおうちもあるかと思います。うちはないので、ベビーカーで出入りするたびに、ドアを肩で押さえ、足で押さえ・・・とストレスフルでした。それがこの小さな道具で一気にスムーズに!なんでもっと早くにつけなかったんだろう。全妊婦に伝えたい。

子どもがアンヨするようになって自分で外へ向かう時も、まだまだゆっくりなので、ドアを開けて止めておけば、その間にいろいろできます(カギ探したり、エレベーターのボタン押したり)。

うちにあるのはこのニトリのものではなく、似たようなやつでヨ―カドーで買ったもの。検索してみたら、いろいろあるようです。足でバーを跳ね上げるタイプならだいたい同じはず。

子育てって何かと細かい用が多くて、しかも自分のペースでは出来ないから、ちょっとでもストレスが減るのは重要です。便利グッズはいろいろ出ているけれど、グッズを増やしすぎてもまた煩わしいもの。昔ながらのものは機能的にも、見た目的にも確かなことが多いように思います。