10.大向こうの掛け声

帰国後1カ月をめどに完結させるべく、ピッチを上げていきます。

モスクワ観光では、ボリショイ・バレエが人気だそうですが、先輩がチケットをとってくれたので、生バレエ初体験の贅沢を味わってきました。

「一応ちゃんとした格好をした方がいい」と言われ、いい年こいてバックパックに着たきり雀を決め込んでいた我々は荷造りに悩む。夫はボタンダウンシャツを入れてジャケットは先輩に借りることに。私はブラウスときれいめパンツ、ヒール靴をリュックにねじこみました。そして結婚式のたびに愛用したこのヒール靴は、モスクワで最後のお役目を終え、ホテルのゴミ箱に・・・。


夕方ホテルで着替え、いざ出陣。
メトロの駅あがった目の前にボリショイ・バレエの本館がそびえる。
本館の内装はそれは素晴らしいものだそうだけど、私たちのチケットは別館。チケットが非常に取りづらく、特に本館は改装オープンして拍車がかかっているようです。
でも別館もまた、緑が基調の内装、特に天井がすばらしくゴージャスだった。まんなかは平場の段々の席で、周囲を3階建ての桟敷席がぐるりと囲む。舞台と客席の間にオーケストラが陣取る。

普通は、白鳥の湖眠れる森の美女・・・というようにある1つの演目を何幕かに分けて上演するそうだけど、この日はたまたま、いろんな演目のダイジェストを集めたプログラム。初心者にはうってつけでした。

1幕目の「レ・シルフィールド」は、いかにもバレエという感じで、ふわふわのチュチュをまとったバレリーナがおおぜい舞い踊る。曲はショパンなので音楽も聴いたことのあるメロディが多い。

2幕目は、6つの演目を入れ替わりでやる。これがバラエティに富んでいて、バレエってこんなに幅広いのかと驚いた。ぴったりしたタイツの男女による前衛舞踏のようなのとか、エスニックな衣装と踊り、音楽だったり。

3幕目はきょう一番の見所、「カルメン」。プリマが登場。カルメンが男を誘惑し、振り、刺される・・・というストーリーが、音楽と踊り、身振りで表現される。なかなか読解力がいります。
この日のプリマは人気ナンバーワンが登場する予定だったのが直前で交代になったけど、「いや、替わった彼女の方がカルメンには向いている」という論評もあるらしく・・・というウンチクを先輩夫妻に教わる。確かに色っぽくて小悪魔な表情がよかった。

1幕が終わるごとに、客席からはブラボー!と声が飛びます。
歌舞伎でいう「よっ成田屋!」みたいなやつですね。見たことないけど。
ブラボーが続くと、もう一回出てきてカーテンコール。この時だけは写真撮影OKです。

ブラボーと声を掛ける人は、よっぽどの観劇通なのかと思ったら、「プリマがチケットを渡して見に来てもらっていて、そのプリマの時だけブラボーと声を掛ける」のだそうです。ゆえに通称「ブラボー隊」。言われてみると、幕ごとに、つまりバレリーナごとにブラボーと声がかかる場所が違う。
ブラボーがたくさん掛かると、人気があるように見せられるからだろうか。気分的なものなのだろうか。最後のカルメンの後は、何回もカーテンコールが続くので、途中で出てきてしまった。

ボリショイ・バレエは国立で、ゆえにバレリーナも皆、公務員。プリマになると40歳ぐらいから年金もらえるそうです。確かに超ハードな肉体労働だ。飛んで飛んで飛んで、回って回って回って・・・だもんなぁ。

バレエは生は初めてだけど、なんか観た記憶があると思ったら、昨年観た映画「ブラック・スワン」だった。コワい映画だった。バレエってけっこう恐ろしい世界だと思ったけど、やはりボリショイでも、あのバレリーナは演出監督の愛人らしい・・・だとかゴシップはあるそうな。

冬の長いロシアでは観劇が数少ない娯楽で、バレエはチケットが高いので(1枚5000円ちょい)、観る人は限られているものの、街中には小劇場がたくさんあるのだとか。
あまり観劇の経験がなかったけど、映画と違って、ナマの舞台を観るというのはいいものだと思った。質感を持った人の体の動きを眺められるし、客席を含めた空気もある。
日本でも、歌舞伎を1回観ておいてもいいかもしれない。