クリスマスの行列

 例年この時期になると思い返すのが、佐賀にいた5年前の12月25日のことだ。
 取材中に先方が「こんなところにいていいの?」と奥さんからの携帯メールを見せてくれた。ほどなくして先輩から電話。「大変なことになっている。早く戻って来い!」。
 S銀行が潰れる? 行列ができている?
 訳も分からず車を走らせたが、大通りに近づくと渋滞で動かない。S銀行本店を目指す車が連なっていたのだ。ATMには長い列。銀行幹部や日銀支店長までが拡声器で「大丈夫です」と訴えている。
 並んでいる人に理由を聞くと「アンタ、潰れんって保証してくれるんかね」と逆に詰め寄られた。「預金は1000万円まで保護されるというが、明日引き出せなかったら従業員に給料払えんから」とつぶやく経営者も。
 発端は1人の女性が友人に送った携帯メールだった。「S銀が潰れるそうだから全額引き出したほうがいい」。本当にそう信じて。メールの転送やクチコミで噂が広がった。
 銀行にお金を預けるというごく当たり前の行為が、無意識の信用の上にあるのだと、それが崩れて初めて分かった。今回の一連の“金融危機”で、崩れて初めて分かったことは何だろうか。

(『週刊エコノミスト』2009年1月6日号編集後記)