今の名前で出ています

 編集部に入って、同時に「黒崎」の名を使い始めて、もうじき1年になる。
 前の職場にいた時に結婚し、何も考えず旧姓(川口)のままでいたが、辞めて迷った。なぜか履歴書は戸籍名でないといけないように思った。働き出す時に改めて考えようと。
 だが、採用面接を経て、編集長との面談の日。仕事の内容や勤務開始時期などを聞いた後、編集部で「今度来る黒崎さん」と紹介されたのだ。待って、の一言が出なかった。
 夫婦別姓は長く議論され、また、先人の努力で旧姓使用が根付いてきたなかで綴るのは気がひけるが、結果、後悔することは多い。
 例えば、以前からお世話になっている方に、人を紹介してもらう場合。その方は「川口」と呼ぶが、差し出す名刺は「黒崎」。先方は何と呼んでよいか戸惑う。申し訳なく思う。
 それに、旧姓で出会ったきりの人が誌面で名前を目にしても、気づく余地はない。
 新姓でいいか、とあの日思ったのには、実はリセット願望もちらっとあった。心機一転、新しい自分に生まれ変われるのではないか。
 だが、名前が変わったぐらい、職場が変わったぐらいで人はそうそう変われない。原稿や取材が急にうまくなるはずはなく、机がきれいになりもしないのである。

(『週刊エコノミスト』2009年8月4日号編集後記)