笑って泣ける芝居

 かつて福岡に住んでいたのに、なぜ観なかったんだろう。昨年、福岡を訪れて初めて観た「かぶりもの劇団『ギンギラ太陽’s』」の舞台に、惹きつけられた。
 演劇の題材は福岡の地元ネタばかり。繁華街・天神のデパートたちの栄枯盛衰に、地元の銘菓「ひよ子」(東京ではなく筑豊飯塚生まれ)が活躍する時代劇。さらにはスカイマークエアラインズの新規参入や0系新幹線の引退まで題材に。役者は建物や乗り物などの張りぼてを被り、擬人化して演じる。
 ストーリーは関係者への取材に基づいている。デパートは戦時中の物資統制下で必死に商品をかき集めて並べ、地下街ができれば連絡通路まで掘る。閉店を表すデパートさんの「遺影」には笑いが。本当は関わった人の話なのだが、モノが語ることで、人の思いが純粋に伝わり、笑いも生まれる。
 主宰の大塚ムネト氏の決めゼリフは「これからも地元の皆様にしか分からない作品をつくっていきます」。でも、きっと、どこででも通じるものがある。
 公演の後、天神のホールを出ると、登場したデパートが並んでいて、思わず頬がゆるんだ。苦境のデパート業界。劇を思い出すと、エールを送りたくなる。

(『週刊エコノミスト』2009年3月10日号編集後記)